手漉本鳥之子「玉鳳紙」ができるまで

玉鳳紙(ぎょくほうし)は、越前(福井県)で製作された最高級の手漉き本鳥の子襖紙です。
越前和紙は、天平時代の正倉院文書に既に「越の紙」として、その名をとどめ
ているように、最も古い伝統を持つ和紙のひとつです。
鳥の子と呼ばれる紙は南北朝の頃から作られ始めた高級紙で、当時は上流
階級のみに使用されたものでした。その初期の頃から越前が名産地で、
「越前鳥の子」として知られていました。

本鳥の子(ボタン)

本来は雁皮紙をさし、その色合いが鶏卵の殻の色に似ているところから、
「鳥の子」と呼ばれました。その無地の肌合いは、雁皮紙独特の柔らかい光沢
を持ち和紙を代表するものです。三椏紙は、雁皮紙とともにその優しい紙肌か
ら、襖紙はもとより写経用紙、料紙など古来よりさまざまな用途に用いられてき
ました。伝統的な手漉き和紙で襖紙の代名詞ともいえます。

玉鳳紙の製作に携わる
      福井県無形文化財、岩野平三郎氏のプロフィ-ル

越前の紙漉きの名家である岩野家に生まれ、平三郎としては三代目にあたる。
初代は、横山大観や下村観山のために日本画の特注紙も漉いていた。
代々古典技術の復興に努めています。

現三代目、平三郎氏の主な作品

・二条城襖絵模写用紙
・唐招提寺襖絵用紙
・桂離宮障壁画用紙(吉田五十八賞)
・四天王寺障壁画用紙
・薬師寺玄奘三蔵院壁画用紙(3m×4m)
・彦根城博物館御亭の襖(打雲紙)
・法隆寺飛天の間襖絵用紙

「打雲・飛雲・水玉の漉き掛け技術」が昭和五十年、福井県無形文化財に指定される。

原 木(げんぼく)
玉鳳紙の主原料となるのは、三椏(みつまた)、じんちょうげ科
の落葉低木で、原産地は中国のようですが、日本にも古くから
入っています。高さ2メ-トルくらいで、早春に黄色い花が咲き
ます。

・伐 採(ばっさい)
木が二年から三年に成長すると伐採できるようになります。
落葉後、冬に刈るのが良いとせれています。

・原木の蒸し
刈り取った木は、枝を払い、長さをそろえてから皮を剥ぎ
易くする為に蒸します。
・白皮 ・皮剥ぎ
一、二時間蒸して、温かい内に皮を剥ぎます。これが「黒皮」です。
紙の原料となるのは、この皮の方にある繊維なのです。

・白 皮(しろかわ)
黒皮はさらに、表皮と、その下にある緑色の甘皮を丁寧にこそぎ
落として、川に晒して「白皮」にします。

・煮 熟(しゃじゅく)
繊維を柔らかくするために、木灰(きばい)などのアルカリを
加えて大釜で煮ます。煮上げた白皮は再び川に晒します。

・ちりとり・漂白
粗い皮や筋、ちりなどを一つ一つ手で取り除き、漂白して
真白な紙料にします。

・叩 解(こうかい)
出来た紙料の水をしぼり、これをよく叩いて、さらに繊維を
細かくほぐします。

・染めつけ
色の着いた紙にする時は、ここで紙料に染料を加え、混ぜ
合わせて染付けます。

いよいよ漉きにかかります。日本の紙漉きの特徴の一つに黄蜀葵(とろろあおい)の使用
があります。この植物のネットリした液で「ねり」を加えることで、繊維を均一に分散させ、
丈夫で美しい和紙が出来ます。

トロロ葵黄蜀葵(とろろあおい)

漉き簾 (すきす)
竹片子(たけひご)を絹糸で編んだ特製のものです。
漉き桁 (すきげた)
良質なヒノキでつくり、上桁と下桁で漉き桁をはさみこみます。
漉き(すき)
漉き舟の中に満たされた紙料を、熟練した技術者が、
竹製の簾(す)の上へ漉き上げていきます。流し漉きと
呼ばれる日本独特の技術です。紙の誕生です。
漉き

模様入れ
模様を必要とするものには、この湿っている段階で模様
をつけます。

圧搾(あっさく)
出来上がった紙を重ねて圧搾し、水を切ります。
乾 燥
湿りの残っている紙を干し板に撫でて貼り付け、乾燥します。選 別・検品
乾いた紙を板からはがし、一枚一枚吊るします。

木版 木版摺り(もくはんずり)
桜・桂等の厳選された板に、洗練された模様を彫刻したものを
版木(はんぎ)といいます。雲母、胡粉、色等と糊材を調合した
ものを「ふるい」(木枠に布を張ったもの)により版木に平均に置
き、版木に鳥の子紙を乗せ心込めて丁寧に摺ります。ただし
木版摺りは、一部の模様に限り使用されます。